氷を読む「アナと雪の女王」

木枯らし吹けば河さえ凍る 雪、氷、冷気。凍てつくような寒さは時に厳しく、時に恐ろしく、それでも寒さと共に生活する人々は、気まぐれに見せる氷雪の美しさに息を呑み心洗われるような思いをする。氷とは様々な顔を見せ、その表に宿る七色の輝きのように人にとって全く違う意味合いを映し出す。今回は「氷の心」という言葉に注目してアナと雪の女王の登場人物の心を象徴する氷に焦点を当てて作品のテーマを読み解いてみようと思う。

  • 氷と生活
  • 氷の心
  • 氷の女王の自尊心
  • エルサの深層心理としてのオラフ
  • 氷と色
  • 愛と氷
  • まとめ

氷と生活 

タイトルが氷でできた文字であらわされているように作品は氷とは切っても切れない関係にある。冒頭のシーンから、氷売りたちが分厚い氷にのこぎりを入れ氷を切り出して労働歌を歌う。そのタイトルは 「氷の心」。「氷とは、美しく危険、誰にも支配できない」と、生活の一部であるが決してかなうことのない恐ろしい存在であることを歌っている。また、アナとエルサの城のシーンを見てみよう。白のドアや天井の各所には雪の結晶のオーナメントが散りばめられている。雪が生活の身近に感じられることを表しているだろう。 雪や氷とはこの世界の人々にとって生活の一部であることを示唆している。

氷の心

アナとエルサにとって氷の魔法はふたりで遊ぶおもちゃであった。トロールが書き換えた記憶を見ても雪遊びはふたりにとって楽しい思い出であり親愛の象徴であった。しかしアナを怪我させてしまってからエルサの魔法は人目から避けられるように扱われて、エルサも周りに心を閉ざしていくようになってしまった。アナの髪は魔法の跡が傷のように白く残っていたが彼女は明るく奔放な子に育った。対照的にエルサは魔法を抑えようと引きこもりがちになり、彼女の部屋はこぼれた魔法で凍り付いてしまっていた。氷は不安や怒りと言った心の痛みとしてあらわれている。「魔法は美しいが危険、抑えなくてはならない」ありのままでいることを否定されたエルサは傷つき、アナを傷つけた過去も乗り越えることなく書き換えられて忘れ去られていく。自分は人を傷つける存在なのだという悲しみはかえって魔法の力を強めていき、アナと仲良く過ごすおもちゃとしての魔法は見る影を潜め、触れるものをみな凍らせていく危険な力へと変わっていく。トロールは「恐れが敵」と言ったが、自分の魔法そのものを恐れてしまっているエルサにとってますます強くなっていく魔法をコントロールすることは難しかったのだろう。

氷の女王の自尊心

ハンスとの結婚を宣言するアナにエルサは難色を示す。城を閉じることを拒むアナに城を出て行ってとエルサは突き放す。なぜ避けるの、何を怖がっているのと問い詰めるアナに対してエルサはひた隠しにしてきた氷の魔法をふるってしまう。その魔法はかつてふたりで遊んでいた時のような柔らかいものではなく、鋭くとがった氷の棘であった。その氷はエルサを囲む人々に向けられ、まるでエルサの人間への敵意と不信感を表しているようである。ひた隠しにしてきた魔法がばれて、エルサは周りに恐れられ捕まえろと追われる始末。エルサは独りスノーマウンテンへ逃げ出してしまう。エルサの魔法はアレンデール全土の凍らせて夏から冬に変えてしまう。「氷の心」と冒頭で歌われるように、エルサの氷の魔法は感情ととても近いところにあり怒りや悲しみとともに飛び出して人を傷つけてしまう。その彼女がスノーマウンテンですべてをかなぐり捨てて氷の女王になる姿は、今まで抑えつけてきたあらゆる苦しみや孤独、人を傷つける恐れから解放された姿である。彼女が思うままに魔法をふるい心を開放するとそこには冷たく美しい荘厳な氷の宮殿が。その宮殿はスノーマウンテンの中腹から天を突くように塔を伸ばしどこか不遜な印象をも受ける。まるで今まで押さえつけられてきた自分はこんなものではないとでもいうように。誰ともうちとけない彼女の小さな胸の中にはこれほどまでに大きくて美しくどこか鋭い世界が秘められていたのである。少しも寒くないわ、二度と涙を流さないわ。氷の女王になったエルサは伸び伸びと氷の宮殿に引きこもる。自分の心が生み出した世界に引きこもって美しい女王として一人君臨する。今までの生活もアナも捨てて生きる決心をした彼女の顔はどこか誇らしげでもあるのだ。しかし孤独を望む彼女とは裏腹に彼女の冷気はアレンデール全土を冬に飲み込んでいた。氷が彼女の心であるならば、エルサは氷の女王でありながらどこか故郷アレンデールに後ろ髪を引かれる思いをしていたのだ。

エルサの深層心理としてのオラフ

エルサにとって氷は引きこもるべき冷たい世界である一方で、アナにとって氷は乗り越えるべき大きな山である。彼女は途中紫のマントを購入して身に着けるがそれは奇しくもエルサが少しも寒くないわと捨てたマントと似ている。旅の途中で出会うオラフは生きた雪だるまでありエルサの魔法によって生まれた。幼いころアナとエルサが遊んでいたころに作った雪だるまである。オラフを連れてエルサに会うと、エルサはオラフを不思議そうに見つめ自分の手に目を落とす。氷の心は誰にも支配できないという歌詞から、エルサは自分の意思でオラフを作ったのではない。オラフはエルサがアナと過ごした楽しい思い出を象徴する雪だるまであり、氷の女王として振舞いながらも心のどこかではアレンデールのことを忘れられていないことを暗示している。さらに言えばオラフは雪だるまでありながら夏に憧れている。生まれながらにして氷の心を宿し続けてきたエルサと対照的なオラフ。心のどこかでエルサはオラフのように夏に憧れているのではないだろうか。

氷と色

国が凍ってしまったことを知って自分が一人で静かに過ごすことができないエルサの周りには吹雪が吹き荒れ始め、心の波が大きくなり、アナの心に氷の刃を突き刺してしまう。過去にアナを傷つけてしまったことや自分のしでかしたことに心が悲鳴を上げ氷の城ががちがちと音を立てる。魔法を受けたアナは髪の色がエルサの色に似て白い。これはアナの心にエルサの氷のような悲しみが入り込んでしまった現れである。また宮殿の氷の色はエルサの心の状態を表しているという。落ち着いて落ち着いてと自分に言い聞かせるシーンでは氷は赤く強い不安を感じさせる。アレンデールから兵士たちが攻めに来た時の色は黄色で、エルサ自らが魔法で人を傷つけようとしていることから敵意や恐怖心を表していると思われる。  

ここで振り返ってアナとエルサの両親の髪の色を見ると、父親はアナと似た栗色の髪をしており母親は濃い茶色をしている。王家の中でエルサだけが白い髪色をしているのである。氷の魔法を受けるとアナの髪は白くなりやがてエルサとそっくりの姿になっていくが、エルサの髪が白いのは生まれながらに悲しい運命を負っているからではないだろうか。アナは妹であるのでやがて王位を継ぐのはエルサである。エルサはアナに比べて幼いころから重圧や責任感を感じざるを得なかったのではないだろうか。今回のエルサの内向的な姿勢はアナへ怪我させた事件にとどまらずエルサ自身の背負っている自身の運命から逃れたいという内なる願いとも無関係ではないように思う。

愛と氷

捕らえられたエルサは牢屋の中で、アレンデールを自分の魔法で冬にしてしまったことを知る。自分では冬を夏にできないため、山に帰りたいとこぼす。エルサは一貫して困難を誰かに打ち明けることができず、その場しのぎをしたり一人になって目をそらしてきた節がある。彼女の髪はアナが魔法を受けた時のように真っ白で、彼女の心は魔法に象徴されるようにずっと氷の心であったのかもしれない。アナがハンスに裏切られ髪の毛が真っ白に染まっていくと彼女の羽織っていたケープも相まって王宮にいたころのエルサにそっくりになる。ここでは氷とは明確に心の悲しみや寂しさ苦しみとして表現されている。寒さは心の冷えであり、オラフが灯す暖炉の火は心に注がれた一息の愛である。「愛とは自分よりほかの人を大切に思うこと」「アナのためなら融けてもいいよ」心まで凍てついたアナはオラフに愛を学ぶ。

アレンデールは猛吹雪に覆われている。エルサがスノーマウンテンで少しも寒くないわと脱ぎ捨てた紫のマントを、アナが凍えながら羽織っている。 エルサに「アナは死んだ」とハンスが伝えると吹雪が止む。おのれの王位のためにエルサを亡き者にしようとするハンスに向かって、アナは自分とクリストフとの愛よりもエルサを守る献身に走る。ハンスの凶行に対して身を投げ出しアナはついに心だけでなく全身を凍り付かせてしまう。そして、身を挺してまで守ってくれたアナにエルサは愛を知り、自分を犠牲にしてまで守ろうとしたアナもまた愛を身をもって知る。真実の愛が氷を溶かし物語は大団円を迎える。エンディングシーンではエルサが自分の魔法で人々にスケートを楽しんでもらい物語は幕を閉じる。

まとめ

冒頭の「氷の心」という労働歌が歌うように多くのシーンで氷とは心を表している。それは力で押さえつけることもできず、怒りや不安に取りつかれてしまえば周囲を傷つけかねない危険なエネルギーである。傷つけられて心が冷え切り自分の世界に閉じこもってしまえば心だけでなく体をも凍り付かせてしまう恐ろしい力である。それでいて氷の宮殿のように美しく圧倒的な芸術を生み出すのも心が持つ力である。一貫して氷は人々の心証を表現しながら、ラストシーンでアナが見せた信実の愛が氷の心を融かすという作品のテーマに大きな象徴性を持たせている。愛を知ったエルサとアナは氷の力で人々を喜ばせることを知るのである。このようにアナと雪の女王という作品は人間の持つ心の多面性と心の持つ大きなエネルギーを氷という美くしい象徴にたくして表現した作品であると思う。

  • SHIRO

    仏具屋葬儀屋など葬祭業界経験者。執筆を仕事にするため模索中。

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